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うつつなき太守(なりきりです)による歴ヲタの備忘録

弁谷の崇寿寺跡から九品寺へ、太守も材木座をワンコと歩いてみたぞ

ワンコを連れて材木座あたりをぷらぷら歩いたんじゃが、まず訪れたのは弁谷(べんがやつ)。かつて、このあたりには、わし、北条高時が創建した崇寿寺があった。 現在は、すっかり宅地開発されており、その当時の面影は薄く、鎌倉青年会が建てた石碑がぽつんとあるのみじゃがな。

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北条高時開基の金剛山崇寿寺のこと

崇寿寺は元享元年(1321)年、わしの開基により、南山士雲が創建した臨済宗の寺院じゃ。とうの昔に廃寺となっておるので、記録もほとんど残されていないが、室町時代の応永31年(1424)頃までは存続していたらしい。

石碑にはこうある。

元亨元年相模守北条高時ノ創建セ シ金剛山崇寿寺ハコノ地域ニ在リシナリ。道興准后ノ廻国雑記ニ記セ シ紅谷ト田代系図ニ拠リ千葉介ノ 敷地トスル別谷トハ共ニ弁谷ニ同ジトスル説アルモ詳ナラズ。
昭和七年三月建 鎌倉町青年団

さて、崇寿寺といえば、やはり「太平記」にある長崎次郎高重の逸話じゃな。鎌倉最期の日、長崎高重は150騎を従えて出陣。崇寿寺を訪れ、「武士とはどうあるべきか」と南山和尚に尋ねている。

 高重「如何是勇士恁麼の事(勇士とはどうあるべきでしょうか)」
 和尚「吹毛急用不如前(ただ剣をふるって前に進むのみじゃ)」

覚悟を決めた高重は勇猛果敢に新田義貞の大軍へと挑んでいったというあの話じゃ。くわしくはこちらのブログを読んでいただくとして、さすが高重は北条武士の鏡じゃよ。しばらくここに佇んでいるうちに、わし、涙が溢れてきそうになって困ったよ。

新田義貞ゆかりの九品寺へ

このあと、源頼朝公の祈願所とされる補陀洛寺に立ち寄り、九品寺へと向かう。材木座新田義貞の鎌倉攻めの折、激戦が繰り広げられた場所じゃが、義貞はちょうどこのあたりに本陣を構えたという。そして義貞は戦の後、この地に九品寺を創建し、敵味方の兵の御霊を弔ったのじゃ。

高重も弁谷から九品寺へと兵をすすめ、義貞の本陣に迫ったという。そんなことを想像しながらテクテクと歩いていると、すぐに九品寺前の交差点に到着した。距離にして400mくらいじゃろうか。うーん、かなり近い。高重はあと一歩まで義貞を追い詰めたというが、この距離だとすればそれは納得。勝利を目前に余裕をかましていた義貞も、さぞかし肝を冷やしたことじゃろうよ。

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九品寺はこじんまりとしたお寺じゃ。九品(くほん)とは、極楽浄土を願う人の生前の行いによって決まる9種類の往生のありようのこと。現代でも「上品」と「下品」という言葉を使うが、これはもともと仏教用語で「じょうぼん」「げぼん」と読む。ほかに「中品」(ちゅうぼん)というのがあって、それぞれにまた上生、中生、下生の3つがあって、往生のありようは9つに分かれるそうじゃ。

わしは鎌倉幕府をつぶしてしもうたが、仏教を熱く敬い、争いごとを避けて平和にくらそうと心がけてきたから、「中品中生」くらいじゃろうな。わしを裏切った新田義貞は「下品中生」、わしだけでなく後醍醐天皇も裏切って息子と弟を殺した足利高氏は「下品下生」が妥当か。楠木正成は、まあ、「上品下生」くらいということでw

ちなみに、本堂の「九品寺」、山門の「内裏山」の字は新田義貞の筆を写したものだそうじゃよ。直筆はもちろん本堂の中で、残念ながらみることはできんかったけどな。

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大海の磯のもとどろに……そして材木座

ということで、ぷらぷらと気ままに歩いて、おしまいには材木座海岸へ。材木座という地名は、大量の材木が和賀江島に運ばれ、このあたりにはそれを扱う材木商人たちが軒を連ねていたことに由来するそうじゃ。

大海の磯のもとどろに寄する波割れて砕けて裂けて散るかも

源実朝公が陳和卿にそそのかされて宋に渡ろうとしたものの、海が遠浅すぎて大船が浮かばず断念したというのも、この海岸である。明治以降は夏目漱石の『こころ』にも出てきて、滑川をはさんだ由比ガ浜とともに、海水浴場としても有名じゃな。

新田義貞の鎌倉攻めではこのあたりも激戦が繰り広げられ、刀槍で傷付いた人骨が多数出土したとかいう話を聞いたことがある。まあ、海を楽しむサーファーのみなさんや、散歩する若いカップルには、ぜんぜんどうでもよい話なんじゃが、そういうところでみな、夏を謳歌しているという史実は知っておいても損はなかろう。

お天気はイマイチだったけど、愛犬をお供に歴史散策できたのんびりとした一日。やっぱり何事も穏やかがいちばんじゃな。いずれにしても、戦はもうこりごりじゃ。

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