北条高時.com

うつつなき太守(なりきりです)による歴ヲタの備忘録

『真田丸』と『真田太平記』、それぞれにみる「犬伏の別れ」

今週のNHK大河ドラマ真田丸」は、おそらく全50回の放送中、最大の見せ場であろう「犬伏の別れ」が描かれた。真田昌幸・信繁は石田三成に、真田信幸は徳川家康につくことを決断。父子3人、今生の別れとなるシーンじゃ。

f:id:takatoki_hojo:20160904224413p:plain

まあ、この名場面について、今さらわしの解説やらうんちくやらはいらんじゃろう。ドラマでは信之が真田の家を守るため、勝ったほうが負けたほうの命乞いに尽力することを提案し、3人は袂を別つことになったが、最後は談笑のうちに協議が終わっている。いかにも三谷幸喜のシナリオらしいし、じっさいのところも、案外こんな感じであったように思えるから不思議じゃ。

ちなみにこれが同じNHKでも「真田太平記」では、雷鳴がとどろく中でシリアスに激論がなされておった。

昌幸「いまこのとき、いまこのときに家康を残すのと、石田を残すのと、どちらが豊臣家の御為になる!」
信幸「父上、豊臣家の御為というより、どちらが天下の為にあいなりましょうや」
昌幸「天下じゃと?」
信幸「父上はこれより先、再び天下取りの戦乱があい続くことをお望みでしょう。父上はその戦乱に乗じて躍り出ようと−」
昌幸「豆州!」
信幸「父上!」
昌幸「豆州…これで決まったのう……」

このふたりの議論をみつめている幸村が、いま、昌幸パパを演じる草刈正雄さんというのが、なんともなつかしい。最後はみんな納得ずく、すべては真田のため、という結論になるわけじゃが、このトーンの違いはなかなかおもしろい。

f:id:takatoki_hojo:20160905001228p:plain

大河では真田昌幸正室で、いま話題の高畑淳子さん演じる薫は「菊亭晴季の娘じゃ」とかいって曖昧になっておるが、じっさいのところは石田三成正室と同じ宇多頼忠の娘という説がある。つまり昌幸は三成と縁戚関係にあたるわけじゃ。いっぽうで信幸の正室小松姫本多忠勝の娘。信繁は大谷吉継の娘を正室に迎えておるから、どっちが勝つかわからない以上、真田の家を守るという点も含めて、この判断は血縁的にも必然だったといえるじゃろう。

興味深かったのは、石田三成挙兵の報せを聞いて、昌幸パパが「早すぎる!」とキレた場面。徳川軍が上杉領内に深く侵入してから寝がえり、その横っ腹を突いて徳川家康を仕留めるという昌幸パパの軍略はここに潰えてしまう。まあ、石田三成はこのタイミングじゃないと、大谷吉継とか会津攻めに向かう西国の諸将を味方に引き入れられなかったしな。石田三成としては、尾張三河まで兵を進めて徳川と対峙する考えじゃったはず。多くの武将たちが戦国の世の再来を予感していたじゃろうし、その可能性はあった。それがこの国にとって、天下万民にとってよかったかどうかは別の話じゃが。

犬伏での3人の協議は一晩中続いたという。その様子を見に行った重臣河原綱家は「何人も近づくなと申したはずじゃ!」と昌幸に下駄を投げつけられ、前歯が折れたという逸話が伝わっており、それは大河ドラマでもしっかり描かれていた。もっともこの時期、河原綱家は在坂であったという記録もあり、これは明らかに創作じゃけどな。

上田城へ引き返す昌幸は、その途上で、信幸の居城・沼田城を奪おうと画策し、留守を預かる小松姫に、「孫の顔が見たい」として開門を請うたという。じゃが、小松姫は昌幸の願いを拒絶し、後日、沼田城近くの寺に滞在していた昌幸のもとに孫を連れていって対面させる。小松姫のこの行動に昌幸は、「さすがは本多忠勝の娘」と褒め称えたという逸話が伝えられているが、これは来週の見せ場ということで。先取りしていうなら、これ、昌幸パパが沼田城をとるとか、孫に会いたかったとかということより、信幸が徳川方に信用してもらうために昌幸パパが仕掛けたようにもわしには思えるんじゃがな。

いずれにせよ、これから第2次上田城の合戦、さらには関ヶ原の合戦へとストーリーはすすんでいく。じゃが、ここで歴史のキャスティングボードを握ったのは意外な人物。そう、金吾中納言こと小早川秀秋さまじゃな。いやはや、歴史というのはおもしろい。

この件についてはこんな記事も書いたのでよろしければ読んでくりゃれ。

takatokihojo.hatenablog.com