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鎌倉ではたらく太守のブログ

愛犬家で歴オタ、うつつなき者の備忘録。湘南ベルマーレを応援中。

井伊直虎は男か、女か……新資料で判明した井伊直親に関する驚愕の事実など雑感も

昨年末、大河ドラマおんな城主 直虎」の放送開始を前に「井伊直虎は男だった?」という報道が流れて、歴ヲタ界隈はやや騒然となった。NHKさんは「ドラマはあくまでフィクションであり、影響はないと考えています」とコメントを出してはいるものの、これが史実ならば、やはりドラマのコンセプトを大きく揺るがすニュースじゃと思う。そこで、遅まきながらこの問題について、わしもあらためて考えてみたいと思う。

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このニュースは昨年12月、朝日、読売、毎日など各紙が報じた。ソースは井伊美術館館長・井伊達夫氏。井伊館長は井伊兵部少輔家(越後与板藩)に養子縁組して名跡を継いだ現当主。もちろん井伊家の研究については第一人者の御大じゃ。

発見された史料『守安公書記・雑秘説写記』

報道によると、発見された史料『守安公書記・雑秘説写記』は、彦根藩筆頭家老の木俣守安が寛永年間(1624-1644)に聞き書きした内容を、享保20年(1753)に、その子孫の守貞があらためて書き写したもの。木俣守安は井伊直継、直孝、直澄に仕え、大坂冬の陣では井伊勢の先鋒を務めた人で、井伊直孝の命令で、当時存命だった新野左馬介の娘で守安のおばさんにあたる人から、当時のことをヒアリングしたらしい。

この資料には、「井伊谷が複数の武士による勝手な支配で鎮まらないため、今川氏真が、家臣の新野左馬助親矩のおいで、同じく家臣の関口越後守氏経の子を井伊谷の領主の「井伊次郎」とし、治めさせた」との記述があった(中日新聞)。つまり、井伊直虎井伊直盛の娘「次郎法師」という通説は覆り、じつはこの「井伊次郎」だったというわけじゃ。

そもそも直虎の存在を示す同時代資料は、1568(永禄11)年、関口氏経との連名で徳政令を出したときの書状しかない。その書状には「次郎直虎」との署名が残っている。従来、この「次郎直虎」が「次郎法師」のこととされてきた根拠は『井伊家伝記』の記述による。そこには「次郎法師は女こそあれ井伊家惣領に生候間」とあり、次郎法師が井伊領の地頭職を務めたという記述があったからじゃ。

『井伊家伝記』は江戸時代中期の享保15年(1730)に、井伊家菩提寺龍潭寺の住職・祖山が、龍潭寺界隈の伝承を交えながら、井伊谷時代の井伊家についてまとめたもの。しかも龍潭寺には「次郎法師」の名による寄進状も伝わっておる。そんなことから「次郎直虎」は「次郎法師」とみなされ、直虎は「女地頭」「おんな城主」といわれるようになったようじゃ。

じゃが、今回の新資料発見で「井伊次郎」なる別の直虎候補が出てきた。それにより「直虎は男だった!」という報道がなされ、歴ヲタ界隈はざわついた。井伊館長は「次郎法師が実在したのは間違いないが、今回の井伊次郎とは別人。偶然記述を見つけた時は背筋が寒くなるほど驚いた」(中日新聞)、「井伊次郎が新野左馬助の甥、という記述から、次郎法師とは別人とわかる。次郎法師は徳政令反対派だったので、井伊次郎が父の氏経と連名で出したと考える方が自然。井伊次郎こそ直虎と名乗った可能性が高い」(朝日新聞)と指摘している。

また、記者発表に同席された京都女子大教授・母利美和さんも「傍証と照らし合わせても、直虎を男と示す決定的な史料。最近の研究で、井伊家伝記には史実と違う部分があることも分かってきており、史実を再整理すべきだ」(中日新聞)とコメントされている。

これに対して、大河ドラマ時代考証を担当する静岡大学名誉教授・小和田哲男さんは「井伊家家臣の記録に、関口の子が井伊次郎を名乗ったと出てきたのは興味深いが、直虎とは断定できず、次郎法師と井伊次郎の二人が同時に存在したことも疑問」「現段階では、直虎が女性という通説の方が蓋然性が高い」(中日新聞)との談話を発表された。地元の郷土史家や自治体関係者も概ね同じような反応かもしれん。そりゃあ、にわかにそんなこといわれても……といったところじゃろう。

井伊直虎は「次郎法師」か「井伊次郎」か

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はたして関口氏経と連署して徳政令を出した「次郎直虎」は「次郎法師」なのか、「井伊次郎」なのか。まあ、この資料が出てきた以上、「井伊次郎」こそ「次郎直虎」で間違いないと、わしは素直に思うけどな。もちろん専門家じゃないので、太守の勘とでもいっておこう。

今回発見された資料は、木俣守安がおばさんから聞き取った内容がもとになっている。もちろん井伊谷当時のことを知っているということはかなりの高齢になるから、多少の記憶違いはあるじゃろう。じゃが「井伊次郎」なんて大事な記憶を間違えることは考えにくい。

発見された資料に「直虎」の文字がないから「井伊次郎」が「次郎直虎」とは断定できないという見方もあるようじゃが、こういう文書は通称で書かれるのがふつうじゃから、この見方は苦しい。それをいうなら『井伊家伝記』の「次郎法師」を「次郎直虎」に結びつけてしまうのも根拠が薄いじゃろう。じっさい、もう一人の大河の時代考証者の大石泰史さんは週刊ポストで、「次郎法師」が成長して武将「次郎直虎」になるという根拠は、極端に言えば同じ「次郎」という名前だったからというだけ、と述べているしな。

そもそも『井伊家伝記』は、享保年間に遠江龍潭寺彦根藩井伊家の支援を受けるべく、いかに自分たちが遠江時代の井伊氏に所縁があったかを、あることないこと書き連ねたもので、資料としての信ぴょう性はきわめて低い。初代の井伊共保が井戸の中でみつかったという伝承も同書の記述によるもので、ドラマの子役の3人が「おかしいよね」「息できないよね」「御初代様は竜宮小僧だったんだよ」などと話していたように、この話ひとつとっても胡散臭いw

このドラマの肝ともいえる おとわ(次郎法師)と亀之丞(直親)の婚姻話も同書の記述に基づくものじゃが、これまたおかしな点がある。というのも、縁談話が出た当時、父・直虎はまだ18歳、亀之丞は10歳なので、おとわはどう考えても幼女ということになる。まだ若い直盛にはこれから先、跡継ぎが生まれる可能性は十分にあるのに、なぜ、おとわの養子縁組を急ぐ必要があったんじゃろうか? 仮に縁組があったとしても、亀之丞が難を避けて出奔したからといって、年端もいかない一人娘を出家させちゃうのもおかしな話じゃ。この おとわと亀之丞の悲恋話もまた、事実かどうか疑わしいわけで、そんな中での今回の「井伊次郎」の登場じゃからな。

『井伊家伝記』も『守安公書記・雑秘説写記』も同時代資料ではないが、資料の信用度という点からみれば、「井伊次郎」=「次郎直虎」で勝負あり、という感じがするんじゃが、どうじゃろうか。

井伊館長は、今回の発表にあたっては時節柄、かなり悩んだと、その心境を吐露されておる。国民的ドラマの根底をひっくり返しかねない新事実の提示だし、そりゃあ、悩むじゃろう。じゃが、研究者として、井伊家を嗣ぐ者として、ほっかむりはできなかったんじゃろう。現在、井伊資料館のサイトでは記者会見に至った経緯を掲載しているが、発表に至る葛藤や番組スタッフへの配慮が滲み出ておるようにすらわしには思えるぞ。

ただ、「井伊次郎」が「次郎直虎」だとして、この男はその後、どうなったんじゃろうか。今川氏没落とともに消え去ったんじゃろうか。そもそも、この話を守安にしたおばさんは「次郎法師」については、なんか話をしていなかったんじゃろうか。

いろいろと知りたいことがわいてくる。まあ、井伊館長は、資料の解明はまだ緒についたばかりとおっしゃっているんで、今後の研究が待たれるところじゃな。

井伊直親に関する衝撃の事実!

そうした歴ヲタの期待に応えてくれるかのごとく、すでに井伊美術館のサイトでは、今回の新資料で判明したことを随時掲載してくれておる。

じゃが、その内容は「次郎直虎は井伊次郎だった」ということの他にも、ドラマの設定とは異なることが多くて、そりゃあもう、びっくりの連続www

例えば……

井伊直親は奥さんのお腹に直政がいるのに若死した義兄の未亡人とゲス不倫に及び、妻を離縁した

●これに激怒した妻の父は、直親が家康に内通していることを今川に密告し、直親は父と同様に誅殺されてしまった

●通説では井伊直親は小野但馬守政次の讒訴により誅殺されたといわれてきたが、これは濡れ衣である

その他、井伊直政についての興味深い発見もあるので一読を推奨したいのじゃが、それにしてもちょっとこれ……このあとドラマがどう展開するのかは知らないが、直親のゲス不倫とか衝撃すぎるし……鶴丸こと小野但馬守の冤罪が晴れるのはよかったけど、まさかあの亀之丞が長じてそんな……(´-`) 

まあ、大河ドラマは、あくまでも物語なんで、楽しめればよいんじゃが、じつは直虎はおとわ(次郎法師)ではなく関口氏経の子ど、新野左馬之介の甥の井伊次郎であった、おとわと亀之丞の悲恋話は創作であった、直親は長じてゲス不倫が原因で恨みをかつて讒言にあったというのでは、さすがに興も冷めるわ。 

幸い、井伊直盛に娘がいたことは位牌があることから(戒名は「妙雲院殿月船祐圓大姉」)確かじゃし、彼女が長じて「次郎法師」となり、井伊谷を事実上治めたことも間違いなさそうので、なんとかギリギリのところで許せるといったところか。

なお、井伊美術館では、2月1日より「井伊直政と次郎法師尼-蘇った青年武将直虎-」という展示が催されるとのこと。はじめは「次郎法師尼これに在り−井伊直虎とは何者ぞ!」となっていたものが、こう変わったのは、今回の新資料を踏まえた展示になるということじゃろう。これは行かねばなるまいよ。

おんな城主 直虎 前編 (NHK大河ドラマ・ストーリー)

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井伊直虎 (歴史新書y)

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井伊氏サバイバル五〇〇年 (星海社新書)

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赤備え

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