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うつつなき太守(なりきりです)による歴ヲタの備忘録

映画「関ヶ原」〜東出昌大さん演じる小早川秀秋に胸熱

湘南テラスモールで、映画「関ヶ原」をみてきたので、今回はその感想。じつは一瞬、「あさひなぐ」にしようかと思ったんじゃがな。ネタバレもあるかもしらんが、まあ、関ヶ原の合戦自体はすでに史実でみんな知っておろうから、気にせず書くとしよう。

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なお、小早川秀秋さんについてはこちらにも書いたのでついでに読んで欲しい。

さて、本題じゃ。この映画の原作は、司馬遼太郎の名著『関ヶ原』。わしが読んだのはたしか、中学生の頃じゃったと思う。映像化作品としては加藤剛さん(石田三成)と森繁久彌さん(徳川家康)のテレビドラマが秀逸だっただけに、どうしてもこれと比較してしまう。わしの中の石田三成像は、つねに加藤剛さんの三成が基本じゃからな。ということで、この映画の感想としては……「やはり2時間で関ヶ原を描くのはきつい」といったところじゃな。

天下分け目の決戦そのものはわずか半日で決着がついてしまったが、豊臣秀吉の死から、この戦いに至るまでをたんねんに描くとすれば、どうしたって2時間では足りくなるのはわかっている。それゆえ、主題を絞って枝葉の逸話はどんどん切り捨てていくしかないのじゃが、そもそもこの小説は、その枝葉のドラマが面白く、すべてが決戦へと帰結していくわけで、そこをどう料理するか腕の見せ所だったんじゃが……やはり、無理だったか。

直江状、小山評定、伏見城攻め、細川ガラシヤ自害、大津城攻防戦、宰相殿の空弁当、島津の退き口といった関ヶ原に華を添えるエピソードは大幅縮小か大胆カット。それでも時間が足りなくて、役者のセリフは超早口でいろんな人物が入れ替わり立ち替わり登場してくる忙しない展開。宇喜多秀家とか上杉景勝なんか、はじめ出てきたことにすら気が付かなかったぞ。

松山ケンイチの直江兼続は友情出演らしいが、石田三成に東西呼応を焚きつけたものね、あとはまったく出てこず。島津義弘、豊久、長寿院盛淳も出てきたのに、肝心の退き口は割愛。なんか消化不良というか、中途半端なものになってしまった感じじゃ。有村架純さん演じる伊賀忍者・初芽の戦闘シーンとか、島左近と柳生一族のよくわからんシーンとかを割愛してでも、せめて小山評定くらいはやらないと、この戦いの性質が伝わらないじゃろう。やはり無理せず、はじめから2部構成にすればよかったのではないか?

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とはいえ、東出昌大さん演じた小早川秀秋はよかった! これまで小早川秀秋というと、小心者のぼんくら、典型的なダメキャラ扱いで、原作でもそう描かれていた。じゃが、この映画では秀秋の心の揺れがたんねんに描かれており、その点はよかったと思う。秀吉にダメ出しされ、家康に懐柔され、三成を恨む秀秋。それでも「裏切り」という行為に後ろめたさを感じる秀秋の葛藤、心の揺れが、じつによく描かれていた。こういう関ヶ原はたぶん、わし、はじめてみたぞ。

従来、小早川秀秋は関ヶ原本戦で東西どちらが勝つかを様子見しているうちに、しびれを切らした家康から鉄砲をうちかけられ、慌てて西軍を裏切るという場面が描かれてきた。じゃが、近年の研究では、この鉄砲の逸話は後年の創作ともされており、本作でもこのシーンは採用されてなかった。秀秋は日和見をしていたのではなく、徳川につくことを約束しながらも、道義的な逡巡をみせる。そこへ島左近の息子・信勝が松尾山へ督戦にやってくる。秀秋の心変わりを危惧した徳川の目付は信勝を斬る。それを目にした秀秋は、なんと西軍に味方をするように下知をする。じゃが、小早川陣営が大混乱になる中、徳川から送り込まれた側近がどさくさに紛れて西軍の大谷隊への攻撃を命じ、秀秋は心ならずも西軍を裏切ってしまうという顛末じゃ。

その後、捕縛された三成に無念を語る秀秋は、従来の三成に罵られる秀秋より、この戦いの悲しみが伝わってきて、胸が熱くなった。これで全国の「小早川さん」が、少しは胸を張れるようになったのではないかのう。

役所広司さんの家康は天下人としての貫禄があった。岡田准一さんの石田三成も若干の官兵衛臭はあるものの、三成の生真面目さとコミュ障ぶりも伝わってきて、まずまずじゃった。合戦シーンはさすがに見応えあり、島左近の最期には衝撃を受けた。じゃが、やっぱり、残念感が残るのは、関ヶ原という大戦への歴ヲタとしての思い入れが大きすぎるのかもしれぬ。

この映画については「予備知識なしでみてもよくわからない」というレビューが多かったが、わしはむしろ逆だと思う。予備知識とか変な気負いをなくして、義を重んじる堅物な三成と老獪な狸ジジイ家康の対比をふつうにみていくほうが、案外、楽しめるように思うぞ。ということで、映画「関ヶ原」はワシ的には65点くらいとしておこう。