北条高時.com

うつつなき太守(なりきりです)による歴ヲタの備忘録

大河ドラマ「太平記」が再放送!~第1回「父と子」の感想などまとめてみた

なんという朗報! 4月からBSで大河ドラマ太平記」の再放送がはじまった。当時、高視聴率を誇ったこの「太平記」。せっかくなので、わしも感想とかアップしていくぞ。

足利尊氏、大河ドラマ太平記、真田広之

歴代大河ドラマでも出色のできばえ

大河ドラマ太平記」は1991年の放送。原作はもちろん吉川英治さんの『私本太平記』、 脚本は大河ドラマで現在放送中の『麒麟がくる』を手掛ける池端俊策さんじゃ。若い衆は知らんじゃろうが、このドラマは歴代大河ドラマでも出色のできばえと評判の作品なんじゃよ。

とくに話題になったのが、片岡鶴太郎さんが演じる北条高時。「神がかっている」と当時絶賛され、暗愚でエキセントリック、それでいて一抹の寂しさを感じさせる怪演は、いまなお語り継がれておるんだぞ。

ということで、第1回は「父と子」。オープニングからじつにエモいではないか。

私達は今、歴史の大きな転換期に生きている。20世紀を支配してきた体制は、このところ急速に崩壊し、来たるべき世紀の姿はまだ見えない。『太平記』の時代もまた、日本の歴史の大転換期であった…

いきなりベルリンの壁崩壊の映像。そうじゃった! 放送された1991は、暮れにソ連が崩壊したんじゃったな。東西冷戦構造が終わり、世界の秩序が大きく変わろうとする激動の年。バブルもはじけたしのう……

当時を思いおこせば、なかなか感慨深いものがある。

ドラマのはじまりは弘安8年(1285)の霜月騒動から。幕府の有力御家人安達泰盛が館で北条の兵に襲われ、あえなく最期を遂げるシーンが描かれた。

安達泰盛といえば、北条時宗公を支えた幕府の重職。時宗公死後には弘安徳政と呼ばれる幕政改革を試みるが、内管領平頼綱と対立し、粛清されてしまう。

「おのれ北条の手先ども!」と、孫を手にかけ、自害する泰盛。かくして、北条はますますやりたい放題になっていくという筋立てじゃな。

北条の下で忍従を強いられる源氏嫡流の足利氏

北条の傲慢と横暴は続く。嘉元3年(1305)、下野国足利貞氏の館に、塩屋宗春の一党が逃げ込んでくる。塩屋宗春は、北条氏に滅ぼされた吉見孫太郎の一族で、源範頼の流れをくむ源氏である。

下野守護・小山氏の軍勢が足利館に押し寄せ、塩屋一党の引き渡しを迫ると、足利館は騒然とする。同じ源氏を見殺しにすることはできない。「戦じゃ!戦じゃ!」武装した足利家の武士たちはいきりたつ。じゃが、執事の高師氏はこれを諫める。

「今、われらの力をもってしては北条と戦うことはできませぬ。そのことは、先代の家時さまが身をもって……戦って勝てるものなら、家時さまはあのような御最期は…」
「……ならば師氏。われらはいつになったら北条と戦える。戦うには味方がいる。味方となるべき源氏の一党を見殺しにして、われらはいつになったら北条を倒せる?」

「そ、それは……」

じゃが、師氏のいうとおり、足利には北条にたてつく力はない。けっきょく貞氏は、塩屋一党を幕府軍に引き渡すことになる。

このドラマは、悪逆非道の北条に虐げられ、忍従を強いらる源氏の嫡流・足利氏という演出が「これでもか!」というくらいに続いていく。表向きはひょうひょうとしているが、内心忸怩たる貞氏の心情を、緒形拳さんはじつに巧みに表現しておられる。さすがじゃな。

足利貞氏

ちなみに、ここでいう「先代の家時さま」云々については、こちらに書いたので、あとで読んでもらえればうれしいぞ。

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北条は平氏、われらは源氏。ゆめゆめ平氏の犬に成り下がるでないぞ!!

さて、このドラマの主人公・足利高氏のライバルといえば新田義貞じゃ。新田氏は上野国の豪族。河内源氏の棟梁・ 源義家公の三男・義国の長男・新田義重を祖とし、足利氏とは同族じゃ。じゃが、新田は源頼朝公が旗揚げしたときに様子見をしていたこともあり、幕府内での立場は弱かった。。

ドラマでは、足利又太郎少年(後の高氏)が、弟の直義らとともに、渡良瀬川を隔てた新田領に忍び込んでいく。じゃが、新田の若武者たちに見咎められ、捕まってしまう。

ここで登場するのが新田小太郎(後の義貞)じゃ。「足利とんぼ!」「新田いなご!」「貧乏源氏!」と双方が罵り合う中、小太郎は又太郎にこう言い放った。

わぬしは得宗の犬だ! いいか。この北条の天下がいつまでも続くと思うな。北条は平氏、われらは源氏。ゆめゆめ平氏の犬に成り下がるでないぞ!!

又太郎は納得いかないじゃろうが、小太郎の言うところがじっさいの足利じゃ。そもそも足利は代々北条から正室を迎えることで、その立場を守ってきた。たとえば、貞氏の偏諱は執権・北条貞時公からもらったものじゃし、正室は金沢流北条貞顕の娘じゃしな。世間一般では、もはや足利は北条と同族みたいに思われておったんじゃよ。

なお、貞氏は正室との間に嫡男・高義をもうけている。ドラマでも正室はちらっと出てきたが、残念ながら高義は早世してしまった。そのため、足利の家は側室・清子(上杉氏)の子・高氏が嗣ぐ。高氏と北条の縁の薄さは、あるいは後の裏切りに影響しているかもしれぬな。

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そして太守・北条高時が登場

第1回の主題は、父・貞氏と子・高氏なわけじゃが、クライマックスはなんといってもわし、北条高時の登場。多くの視聴者は片岡鶴太郎さんの高時に目を奪われたことじゃろう。 

北条高時

又太郎の元服式の場面。烏帽子親はもちろん高時で、高氏の「高」の字も高時の偏諱じゃ。じゃが、高時は烏帽子を又太郎にかぶせると、頭をあげられないよう押さえつけて、又太郎をからかう。

頭を上げてみい……上がらぬのか……上がらぬのか?
上げられぬようじゃのう。いま少し力があるように見えたが、存外非力じゃのうwww

これは「高氏よ、わかってるな。足利の立場をわきまえろよ」という高時のメッセージなわけじゃが、いじめにしか見えないという視聴者もおるじゃろうな。

高時の高氏いじめは終わらない。ある日の闘犬でのこと。愛犬家の高時は大はしゃぎだが、ふと、つまらなそうにしている高氏が目に入った。キャラ的に、わし、こういうの、癇に障るからな。

「あれは誰ぞ」
「足利讃岐守殿のご嫡男」
「……雷帝を引かせ」
「そ、それは……」
「引かせよ」

雷帝というのは高時自慢の屈強な土佐犬。これを高氏に引かせろというわけ。まあ、座興じゃな。

高時の命で雷帝を引いて場内を回ろうとする高氏。しかし、雷帝は言うことを聞かない。力任せに引っ張ると、とつぜん雷帝はキレて高氏に襲い掛かり、尻に噛みつく。「あれ見よwww」場内を逃げ回る高氏に高時は大爆笑。見物客もどっと笑う。

しかしこの場面。JACの真田広之さんじゃなきゃ、どうなっていたことかと、余計な心配をしてしまうほど、雷帝の名演技は怖かったぞ。

かくして公衆の面前で恥をかいた高氏は、這う這うの体で引き揚げていく。これでは源氏嫡流の御曹司も形なしじゃな。

このあと、ドラマでは高氏に赤橋守時の娘・登子との婚儀の話がもちあがる。

「高氏は北条の嫁などもらいませぬっ!…こんな鎌倉ああああああっ!」

辱めを受けた高氏はもちろん承服できない。じゃが、怒り心頭の高氏も、沢口靖子さん演じる赤橋の美しい姫君・登子をみるや、その可憐さにメロメロになってしまうのじゃがな。

北条にいじめられる足利。でも実際は…… 

ということで、第1回は、源氏嫡流である足利が北条の下風に立たされ、暗愚な執権に忍従を余儀なくされていることに、高氏が不満を抱いていく様が描かれた。これは、のちに高氏が鎌倉を裏切る一因として、現代でも広く流布しておる。じゃが、ほんとうにそうだったんじゃろうか。

これはまで書いてきたが、足利は北条と縁を結ぶことで厚遇されてきた家柄じゃ。そもそも源氏の名門といったって、足利以外にも武田や小笠原などもおったし、足利の家格や血筋が格段によかったということもない。歴史研究家の細川和男さんによれば、足利は一有力御家人ではあったが、「源氏嫡流」だなんて当時の人々はだれも意識していなかったと指摘しておられる。

つまり、足利はもはや北条の一族だったんじゃよ。貞氏や高氏、直義や家中の者が「北条の奴らめ!」「こんな鎌倉あああああっ!」と思っていたとは限らない。むしろ、北条との血縁を誇り、うまく利用していたが、幕府がやばくなってきたんで生き残りのために裏切った、という見方もあるということは、ふまえておいてほしいものじゃな。