北条高時.com

うつつなき太守(なりきりです)による歴ヲタの備忘録

妖霊星と嘉暦の騒動~大河ドラマ「太平記」第8回の感想など

8「天下将に乱れんとする時、妖霊星と云ふ悪星下って災ひを成すといへり」奥州安藤氏の乱や当今御謀反で北条政権が揺らぐ中、この回は足利高氏が藤夜叉のもとへと馬を走らせたり、赤橋登子が足利に輿入れしたり、夜中に高氏と直義が蹴鞠を始めたり、貞氏パパが倒れそうになったり、いろいろ忙しい回じゃったな。じゃが、なんといっても見どころは、高時の活躍と殺陣シーンじゃろう。

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内管領長崎高資の専横

この放送回では、執権を蔑ろにする長崎円喜を高時が粛清しようとして失敗したが、もちろん元ネタはある。元徳3年(1331)8月6日のことである。

鎌倉年代記』にはこうある。

典薬の頭長朝朝臣、前の宮内少輔忠時朝臣、長崎三郎左衛門の尉高頼、工藤七郎右衛門入道、原新左衛門入道等召し捕られ、各々配流せらる。陰謀の企て有るに依ってなり。

また『保暦間記』にはこうある。

秋比、高資驕の余に高時が命に随わず。亡気ながら奇怪に思ひけるが、長崎三郎左衛門尉高頼以下の者どもに云付て、高資を討んとしける程に、事顕て高時が身も危ければ、我は知らずと申ければ、高頼が不思議の企なりとて奥州へ流罪す。余党は国々へ遣れけり。

ドラマでは粛清対象はフランキー堺さん演じる長崎円喜じゃったが、史実では西岡徳馬さん演じる子の高資が粛清の対象だったんじゃよ。

このころ、わし高時はすでに病のため執権を退いており、鎌倉の実権を握っていたのは内管領の高資じゃった。高資は北条の被官にもかかわらず評定衆に名を連ねており、これは前代未聞のことだったんじゃよ。

そんな高資の専横ぶりは御家人からの評判がすこぶる悪かった。しかも高資は奥州安藤氏の家督争いで双方から賄賂を受け取り、騒乱を泥沼化させたという疑惑もある。

ちなみに、この事件の背景には得宗後継をめぐって、長崎高資得宗被官と外戚・安達氏らとの内紛があった。その伏線となったのが嘉暦の騒動じゃよ。

嘉暦の騒動 得宗被官と外戚・安達氏の対立

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正中3年(1326)3月13日、わしは病のため出家し、次の執権を誰にするかで一悶着あった。わしにはこのとき、得宗被官(御内人)である五大院宗繁の妹・常葉前との間に長子太郎邦時がいた。長崎高資は太郎邦時を将来の後継者とし、中継ぎの執権として金沢貞顕を推した。貞顕の叔母も五大院に嫁いでおったから、白羽の矢が立ったんじゃろう。

じゃが、これには安達氏と母御前が反発した。わしの正室は安達時顕の娘じゃからな。わしの後継者が得宗被官の血縁となっては、長崎ら御内人の力がますます大きくなり、北条一門はやがて被官の思うままにされてしまうと危惧したわけじゃ。そこで、外戚の安達氏と母御前は、実弟北条泰家を後継に推し、御内人と対立した。ちなみに、わしは……蚊帳の外。まあ、言い訳かもしれんが、わしはこのとき病気じゃったから、仕方がないじゃろう。

こうした中で、先に御内人側が動いた。長崎高資金沢貞顕に使者を送り、強引に貞顕を執権に据えてしまう。貞顕ははじめ、わしと一緒に出家すると執権就任を固辞したが、高資に推されて満更でもなかったのか、結局はこの話を受けた。

これには安達も母御前も怒り心頭。泰家はこれを恥辱として出家し、多くの者がこれに追随した。長崎ら御内人の力がこれ以上大きくなることに不満な御家人が多かったということじゃろう。やがて泰家と母御前が貞顕を暗殺しようとしているという風説が流れると、貞顕はわずか在職10日余りで執権を辞し、出家することになるのじゃ。

かくして北条一門から執権のなり手がいなくなってしまうが、ようやく引付衆一番頭人赤橋守時に執権に就任し、高時の嫡子邦時は守時が扶持することが決まる。邦時は5歳で鶴岡八幡宮を参詣し、得宗の後継者となり、長崎高資御内人の思惑通りに決着したというわけじゃ。

じゃが、これではいよいよ得宗は、北条は、鎌倉は御内人の思うがままになってしまう。 かつて父・貞時は、執事の平頼綱長崎円喜の祖父じゃよ)を討ち、幕政改革に乗り出した。そこでわしも、父に倣い、幕府再建のために長崎高資排除に立ち上がることを決意したというわけじゃよ。

元弘元(1331)年8月(元徳2年、1330年との説も)、わしは幕府奉行人のひとり、長崎高頼とともに、専横を極める長崎高資を排除すべく、側近たちと内々に事をすすめた。じゃが、これがあっさりとバレてしまい失敗。わしが頼りにした長崎高頼(円喜の弟じゃよ)は奥州へ流され、わしは無念にも完全に政治力を失うことになってしまうのじゃ。

これをソースに、高資ではなく円喜を粛清ターゲットに変えて描かれたのがが、今回の「太平記」の放送回というわけじゃな。 

ということで大河ドラマのこと。まずは高時判官の高氏いじり

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幕府柳営内の華雲殿で、高氏・登子夫妻の婚礼披露の宴が行われる。乾杯の音頭をとるのはもちろん得宗である高時。足利と北条の絆が深まれば鎌倉は盤石。田楽舞も楽しげで、それはそれは大いに盛り上がっておった。

じゃが、その盛り上がりは、ひょんなことから水を差される。佐々木判官が、祝いの場で高氏と藤夜叉の艶話をほのめかしたのじゃ。この男、いったいどういうつもりだったんじゃろうか。ただ面白ければそれでよいというあたり、いかにもバサラじゃのう。悪のりする高時も感心せんがな。

判官「いやいや、めでたい。しかし、足利殿、かかる大輪の見事な花を手に入れるためには、野に咲く花を泣かせて枯らせて打ち捨てたもうこともあったでござろう」
高時「判官、それは聞き捨てならぬ。野に咲く花とは何の例えだ?」
判官「某がお答えするより、当の婿殿にお聞きあそばされてはいかがかと」
高時「げにも……。これ、婿殿、泣かせて枯らせた花とは何の例えぞ?」
判官「足利殿、執権殿がお尋ねぞ。お答えせねば無礼であろう」

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困惑する高氏をみて、登子は気を利かせて「疲れました」と高氏に退出を促す。じゃが、高時はこれをスルーしたりはしない。

高時「こら! 虫食い瓜(←高氏のこと)、なぜ動く?」
高氏「……登子が戻りたいと申しておりますゆえ……」
高時「登子が?! ひゃっはあ……w この男、虫食い瓜に似もやらず、中身は甘いぞwww」

いきなり「虫食い瓜」というワードを出してくるあたり、片岡鶴太郎演じる高時、さすがのセンスである。高時はここでさらにジョークをぶっこんで、場を盛り上げようる。

高時「さては閨(ねや)急ぎか?」(一同爆)
高氏「これは……きついおからかいを」(内心激おこ)
高時「判官、足利殿は閨急ぎだ! 閨急ぎだw」
判官「これはしたりw」
高時「したりしたりwww」

したりしたり! この場面の高時と判官の阿吽の呼吸、高氏いじりは絶妙じゃった。これには一同大爆笑。良識派赤橋守時金沢貞顕は困惑するが、助け舟を出せる状況ではない。高氏は祝いの席で恥ずかしい思いをさせられたが、おかげで高時は満足したのか、もはやこのことを突っ込んではこない。内心、高氏はほっとしたことじゃろう。

得宗高時の見事な殺陣をみよ

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とまあ、こんな感じで宴は大いに盛り上がったんじゃが、メインディッシュはここからじゃ。

とつぜん明かりが消されると、舞台の上で烏天狗たちがの矛を使って舞い始める。ここに長崎円喜を暗殺しようと、ましらの石ら刺客がまざっているのじゃ。じゃが、当の円喜が宴席にいない。焦る刺客たち。このときの高時の胸中はどうであったんじゃろうか。

やがて遅れて円喜がやってくる。円喜は「奇怪なる噂を耳にした」と、高時に耳打ちする。フランキー堺さんの目がめちゃめちゃ怖い。

高時「奇怪なる噂とはなんじゃ?」
円喜「この長崎円喜を処すために、伊賀より参った曲者がこの宴の中に潜みおるとの、不思議な沙汰にございます」
高時「そこを殺す者が……それはまた、奇怪じゃのう(すっとぼけ)」
円喜「……奇怪なるはそれだけではございませぬ。そこを命じたのは、元をたどれば太守、あなた様にあらせられると、またまた不思議な沙汰にございまする」
高時「……」
円喜「まことに、故なき沙汰と一笑にふし、参上仕りました」
高時「ふふふふふ……それはまた、不思議な沙汰よのう。はははははh…」

するととつぜん再び明かりが消え、刺客が襲ってくる。悲鳴が上がる。高氏と登子も、ましらの石に襲われ、間一髪で難を逃れる。そして暗闇の中、「長崎殿が!長崎殿が!」と叫び声があがる。

(やったか!)

高時は横に倒れている男に明かりをかざす。じゃが……「違う……これは違うぞ」と高時は絶叫する。事情を知らない金沢貞顕は殺された男の顔を確認し、「違いまする!こは長崎円喜どのにはあらず!」と安堵の声をあげるが、横には顔面蒼白となった高時の顔が……

その様子をみていたのか、脇から円喜が登場する。円喜の憎々しい視線に、高時は恐怖のあまり錯乱する。

「わしではない……円喜、わしではないぞ! 曲者じゃ! 出あえ! うわあー!」

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柳営内は大騒ぎ。一連の様子をみていた佐々木判官が高氏に囁く。

「愚かなことよ。身内の者を殺すのにわざわざ伊賀の者を使うか? 噂は都へ筒抜けじゃ。北条は割れた。先は見えたぞ」

「妖霊星、妖霊星をみばや…」

刺客に向かって見事な太刀捌き(?)を見せる高時。じゃが、さすがに幻影の天狗たちに叶うはずもなく、半狂乱のまま卒倒してしまう。かくして高時の幕政改革はここに潰えてしまったというお話じゃ。

「天下将に乱れんとする時、妖霊星と云ふ悪星下って災ひを成すといへり」

というわけで、ここから鎌倉幕府は滅亡への道へと直走り、時代は南北朝の騒乱へと向かう。わしの計画がもし成功していたら、どうなったじゃろうか。時頼公が安達の助けを受け政権を立て直したように、鎌倉の命脈も少しは伸びたじゃろうか。それはもはや、誰にもわからない。

とはいえ……

北条高時といえば、犬あわせ(闘犬)と田楽にうつつをぬかし、政治を顧みなかった暗愚な人物、というのが世間一般の見方のようじゃ。その点については「太平記」はかなり大げさに書いてはおるが、全否定はしない。じゃが、わしはわしなりに、幕政改革に乗り出そうとしていたことは知っておいてほしいんじゃよ。