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うつつなき太守(なりきりです)による歴ヲタの備忘録

隠岐配流〜大河ドラマ「太平記」第16回の感想など

先帝・後醍醐天皇隠岐配流になった。本来であれば、これですべて一件落着のはずだったんじゃが……

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先帝は隠岐

先帝の護送役は佐々木判官。このバサラ者は牢司のときから何くれとなく先帝に便宜を図る。道中、咳き込込む先帝を心配して、同行する阿野廉子が休憩を求めると、上等のも草を集めさせ、「およその計らいなら、この判官の一存にて…」などと、媚を売る。いかに先帝とはいえ咎人ぞ。それに、不遜なことを承知の上であえて言うが、ここで先帝が体調を崩してころっと逝ってしまえば、鎌倉にとっては好都合だったんじゃが、判官はわかっておらぬ。

出雲の美保関に着くと、先帝は判官の肩に手を置き、その労をねぎらう。

「長い旅路であったが、そちの心遣いは忘れぬ」
「惜しい奴よ。なぜ汝は公家に生まれず鎌倉武士なぞに生まれた。生まれ直せ」
「汝はまだ若い。時しあれば、生まれ直して朕のそばに来ぬか?」

感極まって平伏する判官。まったく高氏といい判官と言い、どいつもこいつも、なぜ高貴な人の三文芝居に簡単に騙されるんじゃ? これは王家のいつもの手ではないか。武士を犬のごとく扱い、蔑む心底を、なぜ見抜くことができないのか。情けないことじゃ。

この先帝と判官のやりとりをしっかり見ていたのが足利の間者・一色右馬介。さっそく鎌倉の足利邸に注進する。

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判官がたんに節操がないだけの男なら、なぜ隠岐に流される先帝に取り入るのか。「不思議な人じゃ」と、足利直義は訝る。

「わからぬものが少しずつ見えてくる。おのおのの正体を見定めねばならぬのう、直義」
「見定めていかがいたします?」
「直義ならどうする?」
「みなの力を結集して北条殿を討ちまする」 

おい、直義、そちはなぜ北条をそこまで憎むのじゃ。ドラマでは「直義」を名乗っておるが、ほんとうはこの時期、そちの名前はわしの「高」をもらって「高国」だったはず。それなりに遇してもらっていたはずじゃ。このドラマを見ていると、北条は足利をいじめぬいてきた印象があるが、じっさいはその逆なんじゃよ。

兄弟が物騒な会話をしているところへ、執権・赤橋守時が訪ねてくる。鎌倉での貞氏の弔事を禁じたことを義兄として詫びにきたのじゃ。高氏は「葬儀は足利庄にて近親者だけで執り行う」「これは乱世のせいであり執権殿が気に病むことではない」と守時に告げる。母の清子も「我らの願いは、どこまでも北条殿と穏やかに手を携えて暮らすこと。亡き貞氏どのもそれを願うておられよう」と言い、守時を安心させる。

さすがに清子どのは常識人、わかっておられるようじゃ。高氏、自重せよ。何事も穏やかが一番じゃからな。

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その夜、閨で登子が「今日は安堵いたしました」と話し出す。登子はここ数日の不安な気持ちを高氏に打ち明ける。それはそうじゃ。登子は北条の血筋じゃからな。

「時々、愚にもつかぬことを思いまする。いっそ兄上も北条をやめて、登子のように足利の者になればよいのに。そうすれば千に一つ何事か起こっても、殿と兄上が争うことは、敵味方にわかれることはございませぬもの。登子は、故ものう、恐ろしいのです」
「案ずるな。思い過ごしじゃ」

虫食い瓜め、申したな。信じてよいのじゃな。くれぐれも登子を悲しませることのないようにするんじゃぞ。

足利高氏、裏切りを決意

足利庄の鑁阿寺では貞氏の葬儀が営まれた。斯波、吉良、今川といった足利一門が集まり、北条からは金沢貞顕、二階堂道蘊が参列した。道蘊は得宗とずぶずぶと御家人、貞顕は貞氏の義兄じゃから、これは最適な人選じゃろう。

金沢貞顕、二階堂道蘊

貞顕もまたこの時期、足利が不穏なことを感じとっていたのじゃろう。やんわりと高氏に忠告する。

「この金沢貞顕得宗殿の使者としてではのうて、御父上の友として参じたつもりじゃ。御父上とは若いころ、よう碁を打ったものよ。じっくりと熟慮され、一手一手我慢強い碁であった。その思慮深さは御父上をよう物語っておった。よいか、高氏殿、何事も我慢じゃ。御父上のお心がいつまでも高氏殿に宿らんことを、切に願っておりますぞ」

高氏殿、短慮はいかんぞ。短慮はいかんぞ。もし怒りに任せてそちが立つようなことんになれば大きな戦になる。北条の姻族として幕府を支え、世の安寧を保つことこそが、足利の役目。貞顕はしっかり、それを伝えてくれたんじゃが……

弔事がおわると「内々に話がしたい」と、岩松経家と新田義貞が高氏のところへやってくる。経家と義貞は幕府の命で大番役を命じられたので、京に行く前に高氏の真意を知りたいというのじゃ。

なんと経家は、隠岐の先帝を救出するというとんでもない計画を高氏に打ち明ける。いったん先帝を阿波に迎え、諸国の宮方とともに隆起するので、高氏にも参戦せよといいうのじゃ。じゃが、高氏は岩松ごときに本心を明かしたりはしない。

新田義貞、足利高氏

高氏は義貞にとつぜん昔話をはじめる。子どもの頃、義貞に言われたことが忘れられないというのじゃ。

「新田殿に言われたこと、今でもはっきり覚えています。北条はわわれらが所領を奪うたもの。足利はその北条と同じ汁を吸うておる犬じゃ。われらはともに源氏。ゆめゆめ北条の犬に成り下がるではないぞ。ゆめゆめ、北条の犬に、そのとき言われたことが、今でも某の胸に……この高氏、そのときいわれたことと毎日張り合うていきてきたようなものじゃ」
「あれから15年もたち申した。もはや新田は田畑を切り売りせねば、京の大番役の係りもままならぬ。北条を相手に弓引くのは望むことなれど、兵を集めても100、200。とても戦にならん。岩松は四国で悪党をやり兵を蓄えておるが、わしにはそういう器用な真似は出来ん。今のわしは、こう申す他はない。足利殿、御辺が立たれる折りあらば、この新田も加えて下され」
「新田殿、そりゃ逆じゃ。新田殿が立たれるなら、足利も従いまする。我らはともに源氏。新田殿を見殺しにはせぬ」

「では、帝をお救い申す件は?」と問う岩松に、高氏は「よきように。今はそう申し上げる他はござらん」と言い残して去っていく。

ぐぬぬ、高氏め、貞顕の忠告はまったく無視か。おまえら足利一族は、北条とともに甘い汁を吸って今日まで来たのになんなんじゃ。北条の犬から王家の犬に鞍替えか? 清子や登子の願いもかなぐり捨てるのか?

岩松や新田などどうということもないが、足利の裏切りとなると事は厄介。まずい、まずいぞ。

先帝を弑し奉るしかない 

それから数か月後、西国でまた火の手が上がる。逃亡していた護良親王が熊野で挙兵したのじゃ。当初幕府は小さな局地戦にすぎぬとたかをくくっていたが、河内で楠木正成が再び兵を挙げ、赤坂城を奪還すると、反北条の機運がまたもや盛り上がってきたのじゃ。これも高氏が正成を逃したせいじゃ。いまさら言っても詮無きことじゃが、なんとも腹が立つではないか。

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河内の異変はすぐさま、鎌倉に届く。得宗高時と母・覚海尼は、長崎父子を呼びつけ、善後策を協議する。

「楠木は討ち滅ぼした。都は穏やかになった。そう申したではないか。わすか1年でまたもとの騒々しさよ。これは誰のせいぞ。高資、そちの政事はなんぞおかしくないか! なんぞ申してみよ!! 母上もなんぞ言うてやって下され!」
「円喜殿、過日、ある僧侶が申しておりました。諸国の土地を北条家が力任せに奪いすぎはせぬかと。また諸国の守護地頭などの職を北条の者が独り締めにしてはおらぬかと。その不満が諸国にあるゆえ、かかる謀反が止まぬのではないかと」
「恐れながら、それを申さば都の公家衆はいかがでございます。われら武家よりもさらに広大な土地を有し、官の長を一手に独り占めしております。その公家ばらが北条を出過ぎたものよと逆恨みをいたし、悪党どものをそそのかしてのこの騒ぎにございます。高資をお責めになる前に、悪党楠木、その楠木を操る公家や選定をお責め目になるべきかと存じます」

円喜の見立ては正しい。此度の騒乱の大元は、自分の息子に皇統を嗣がせたいという先帝のわがままにある。それに公家や悪党どもが便乗して騒いでおるにすぎない。先帝を除いてしまえば事は収まる。

ということで、判官がこの場に呼び出される。

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「こともあろうに、その先帝に媚びへつらう御家人がわれらの近くにおりまする。まったくもって許しがたき輩」
「判官、よく来たのう」
「高時殿、後の細々としたことは円喜殿にお任せするがよかろう」
「判官、また後でな」

高時と覚海尼が去ると、高資は咎人である先帝にやたらと便宜をはかった判官を一喝する。あわてて申し開きをしようとする判官に、円喜は隠岐判官が佐々木の同族であることから、ある提案をする。

隠岐は判官殿の離れの庭のようなもの。いわば先帝は判官殿の庭におられるも同然じゃな…」
「???」
「まだお分かりにならぬか? 河内の悪党どもが騒ぎ立てるのも、隠岐の先帝ゆえよ。先帝さえおわさねば、すぐにも消える仇花よ。そうではござらぬか? 判官殿の庭で何が起きようとも、われらは関知致さぬ」
「……」
「判官殿、鎌倉に忠義を証立てるよき潮じゃと思うが、いかが?」

要するに先帝を殺せと。恫喝から懐柔へ。このあたりの円喜は流石じゃ。判官はもはや逃げられぬ。いくらバサラ者でも、これは失禁寸前だったじゃろうよ。まあ、判官がここで先帝を弑し奉れば世は収まる。

わしは「穏やか」をモットーにしてきたが、事ここに至ってはやむを得ない。隠岐の先帝を始末せねば鎌倉は危うい。恐れ多きことじゃが、是非に及ばずじゃ。判官、わしのズッ友じゃろう? ここは忠義を見せるのじゃぞ。